家庭での会話が語彙の差を生む

語彙は会話からも得られる

 国語の成績を上げたい、国語力を付けたい、と思っている生徒は多いと思います。国語力というのは、文章に書いてある内容を正確に読み取る「読解力」と、自分の考えを分かりやすく伝える「表現力」から成り立っています。ただ、その両方の土台となるのが「語彙力」、つまり多くの言葉を知っていて、それらを使いこなす能力です。読解力や表現力は、まず豊かな語彙があって初めて伸びるものです。
 よく、「語彙を増やすには、本をたくさん読めばいい」といわれます。確かに本をたくさん読むことは語彙を増やすのに効果的です。しかし、国語が苦手な生徒の多くは読書が嫌いであったり、苦手意識を持っていたりします。また、言葉には、実際に使うことで身に付くという面があります。読むだけではなく、実際に使ってみる機会がないと、自分の中の語彙として定着しません。
 そう考えてみると、子供の語彙を大きく増やすためには、大人との会話というものが重要だと言えるでしょう。実際、塾で子供たちを見ていると、大人との会話の機会が多い子供は語彙が豊富です。会話の中で新しい言葉に出会い、その使い方を体感できるからでしょう。
 特に心情を表す言葉では、語彙力の差が顕著に表れます。実は、小学校で習う漢字には、感情に関係するものはあまりありません。そのせいか、作文を書いたり、物語の登場人物の気持ちを考えたりするとき、「楽しかったです」「悲しいのだと思います」といった表現がほとんどです。「悲しい」にも、「切ない」「やりきれない」「哀れ」「やるせない」「痛々しい」「心が痛む」など、日本語にはたくさんの表現があります。こういった表現を周りの大人が使えば、子供の中に自然とインプットされていきます。
 いろいろな表現の例を挙げてみます。

 「嬉しい・喜ぶ・楽しい」に関する言葉
 ●浮かれる ●喜々とする ●胸がはずむ ●愉快 ●上機嫌 ●冥利に尽きる

 「悔しい」に関する言葉
 ●歯ぎしりする ●泣くに泣けない ●涙をのむ ●無念 ●唇をかむ

 「怒る」に関する言葉
 ●腹が立つ ●逆上する ●憤る ●気色ばむ ●血相を変える ●息巻く

 「驚く」に関する言葉
 ●呆気にとられる ●肝をつぶす ●腰を抜かす ●目を丸くする ●寝耳に水

 「悲しい」に関する言葉
 ●胸が痛む ●胸がしめつけられる ●打ちひしがれる ●やるせない ●嘆く 

日常の会話で語彙を増やす

 語彙を増やそうと思っても、意気込んで猛勉強する必要はありません。短期間で集中的に言葉を覚えたりするより、むしろ普段の会話を通して日常的に言葉を増やしていく方が効果的です。いつもはなかなか使わない慣用句や難しい熟語を意識的に入れてみてください。

 ●今日は朝から目が回るような忙しさだった。
 ●◯◯さんは、今日もお隣の家の前まで掃き掃除をしていたよ。頭が下がるね。
 ●あのコメンテーターは歯に衣着せぬ物言いが売りなのだろうね。
 ●雨後のたけのこみたいにタピオカのお店ができたけれど、今はだいぶ減ったね。
 ●藤井聡太二冠の勝負強さには、ベテラン棋士もかぶとを脱いだそうだよ。

 また、子供が話す言葉を、大人の言葉に変換するのも面白いと思います。
 ●子:遠足の班を決めたんだけど、私の班は私以外、全員男子になっちゃった。
  親:じゃあ、紅一点ってわけだね。
 ●子:後ろの子がちょっかいを出してきたのに、私が先生に怒られた。ひどくない?
  親:それは理不尽だね。そういうときは釈明してもいいんじゃない?
 ●子:◯◯ちゃんとは気が合うんだよね。おしゃべりをするのがすごく楽しい。
  親:気の置けない友達との会話はストレス解消になるね。

大人が範を示す

 幼児期は別として、小学校の高学年以降にもなれば、会話に関しては変に子供扱いをせず、対等な目線で会話していいと思います。難しい単語でも、会話の流れで出てくるのであれば、制限をかけずに普通に使ってみてください。「それはどういう意味?」と聞かれたら、辞書の意味をそのまま伝えるのではなく、自分なりの言葉に噛み砕いて説明してあげましょう。もし大人でも意味が分からなかったり、易しく説明できそうになかったら、一緒に調べてみるのもいいでしょう。分からないことがあったらそれを放置せず、調べたり勉強したりして自分の新しい知識にする、そういう姿勢を子供に見せるいいチャンスです。
 これは語彙の訓練に限った話ではありません。子供に本を読ませたいと思ったら、まず周りの大人が楽しそうに本を読むことが重要です。大人が勉強している姿を見せれば、「勉強しなさい」と注意するまでもなく子供も勉強します。大人が汚い言葉や貧相な語彙だけで会話をしていたら、確実に子供に悪影響を及ぼすでしょう。子供の語彙を増やし、ついでに自分自身も成長するために、まずは大人が正しく豊富な語彙を使うよう心掛けたいものです。